海が吠えた日 第34回 「思いつくままに」 七十代 男性

2011年4月5日

昭和二十一年五月にビルマから復員して来たが、体調が今一つ思わしくなく、ブラブラする生活が続いていた。

 あの当時はI町長・Y助役・O・O両町議及びO氏等が中心となり、津波復旧作業が始まった。思い出すと、昭和二十一年十二月二十一日午前四時二十分ごろ、突如として地鳴と共に大地震となり、数分間揺れ動いた。

 我が家では、母と末弟は日和佐の母の実家へ行って不在であり、親父は一階で寝ていたが、倒れたタンスと水屋にはさまれた。私と三弟は二階で寝ていた。姉や義兄は、揺れ止むと同時に子供二人を連れて、七夕祭のアンドンを頼りに、一足早く昌寿寺山へ逃げて行った。三弟は、七夕祭に利用していたアンドンに火をともして、杉王神社へ逃げさせたが、非常用に確かに便利だとつくづく思った。

 親父は、頑固者で倒れたタンスに敷かれながらも、お金は持ったか、位牌は持ったかと口うるさく言う人だった。私は親父を連れ、最後に家を出た。国道はもはや膝まで潮が来ており、I本家の横を昌寿寺山へ逃げた。

 法覚寺横は高台のせいか潮は来ていないようだった。昔の軍隊用語に、「指揮慎重なるは、指揮官の最も戒むべき行為である」と言われるが、右にしようか、左にしようか迷うようでは、指揮官としては最低だとよく耳にした言葉であった。結果論ですが、大地震に遭遇した時、逃げようか、二階に上り待機するか、うろうろとうろたえているうちに、潮(波)にのまれて死亡するしかない。

 運よく昌寿寺山に逃げ、山上の人となるも、下の大谷で、「助けて!!助けて!!」と悲鳴が聞こえるが暗くてどうすることもできなかった。

 東の方が明るくなり、下山して我が家をまず見たら流失を免れている。しかし空腹ではどうにもならないので芋壷を見た。潮水で便所も満たんとなり、芋壷へ流れ込み、俗にいう、「味噌も糞も一緒になっていた」。しかし背に腹は変えられない。芋を取り出し井戸水でよく洗い蒸した。釜一杯のさつま芋と、昨夜の冷飯をもって昌寿寺山へ行く。

「腹へった俺にも一つくれ」「一つおくれ」と気前よく渡していると、山上にたどりついた時は底に少量となっていた。
 食糧卸組合の米が潮水びたしとなっていたので、青年団員が二俵持出し、釜はI本家で二個借用して、昌寿寺で炊き出しに使用し、G先生宅横の道路に流れていたタクアンの樽を割り、利用させてもらった。

 青年団が満徳寺で不寝番を立てて警戒に当たり、夜食に銀飯を食っていると、町民の皆さんに広く喜ばれたが、警察から小言も言われた。
大谷で死亡したMさんを誰一人として引ぎ上げに行かなかった。私は戦場帰りで、こうした体験もあり、何の苦もなく田圃へはいり、背負って引き上げて来て、遺族の方々から喜んでいただいた。

 町役場から、復旧作業に協力してほしいと臨時雇いに採用された。まず何と言っても、連絡道が第一だと国道の整備清掃のため協力したが、山積となった廃材や漂着物には泣かされた。

 こんな逸話もあった。満徳寺下にKさんの納屋があった。流失した跡へOさんが指揮で応急住宅建築に取りかかる。ここは、港の隅でゴミ捨場であったが、戦時中の食糧難のため埋め立てて、親父とT氏とM氏の三人が畑として利用していた所で、大蔵省へ上申して払下申請をしていたが、町が協力してくれずそのままになっていたのを、K土木課長の計らいで代替地をいただいたこともあった。

 当時被災者に対する救援物資を輸送するため運転士が必要となり、T氏が採用され、くろがね三輪車でよくお世話になったものだった。

 南海道津波以前には、西浦大手に堤防があり、大きな松が茂っていたが、人間って勝手なもので利便ばかり追求し、次から次へ松を切り、土手をくずして通路となし、そのため、今回の津波時には必要以上の大惨事を引き起こしている。先人の教えをよく理解し、百年の計を守らねばならないとつくづく感じた。

 昔から大地震には必ず津波がつきものであり、避難するには極力川筋や橋を利用せず、高台へ逃げよと教えられ、また子供たちにも教えている。しかし西浦の場合は、裏に瀬戸川が流れており、最悪の地理条件である。

最近、N氏横に避難橋を架橋していただいたが、もう一つH牛乳店横にも必要だ。これに伴う昌寿寺山への避難路もつけ、西浦大手の防潮堤も中身がバラストであり、液状化現象には特に弱いと最近学者が言い出している。堅固なものに再構築して、貴重な生命と財産を守ってくれと願う者は、私一人ではあるまい。

◆「海が吠えた日」は、牟岐町においてまとめられた「南海道地震津波の記録」です。
 詳しくは、牟岐町ホームページをご覧ください。

【参考サイト】

牟岐町ホームページ

お問い合わせ

防災人材育成センター
啓発担当
電話:088-683-2100
ファクシミリ:088-683-2002